記事の要約
- アダニーヤ・シブリーの小説『とるに足りない細部』日本語版発売
- パレスチナ/イスラエルの歴史的事件を題材にした作品
- 国際的に高く評価され、複数の賞にノミネート
アダニーヤ・シブリーの『とるに足りない細部』日本語版発売
河出書房新社は、パレスチナ人作家アダニーヤ・シブリーの中篇小説『とるに足りない細部』の日本語版を2024年8月26日に発売すると発表しました。本作は2017年にアラビア語で発表され、全米図書賞翻訳部門最終候補や国際ブッカー賞候補になるなど、世界各国で高く評価されています。原題は『Minor Detail』で、日本語版の価格は税込2,200円となっています。
『とるに足りない細部』は1949年8月に発生したイスラエル軍小隊によるベドウィン少女のレイプ殺人という歴史的事実に着想を得た作品です。第一部では当時のイスラエル軍将校の視点から事件が描かれ、第二部では現代を舞台に、パレスチナ人女性が秘匿されてきた事件の真相を追求する様子が描かれています。この二つの時代における極限状況下の日常を鋭く描き出しています。
本作は2023年に独リベラトゥール賞を受賞しましたが、フランクフルト・ブックフェアでの贈賞式が中止される騒動がありました。イスラエルによるガザ攻撃が激化する中、本作がイスラエル兵の暴力を描いた内容であることが問題視されたのです。この決定に対し、オルガ・トカルチュクやアニー・エルノーなど世界中の作家・出版関係者から抗議の声が上がりました。
日本語版の発売に際し、河出書房新社の季刊文芸誌「文藝」2024年夏季号には、シブリーが一連の騒動を受けて発表したエッセイ「かつて怪物はとても親切だった」が掲載されています。このエッセイでは、想像を絶する体験の中で、恐怖や戸惑い、憤りに苛まれながら言葉を探し続ける作家の姿が克明に描かれています。
日本語版の帯には、村田沙耶香と西加奈子による推薦の言葉が掲載されています。村田は「この作品の「細部」に宿っているものは、私の精神世界を激しく揺さぶり、皮膚の内側を震えさせる」と述べ、西は「かき消された声。かき消された瞬間と共にあるために、この小説は血を流している」と評しています。同時代のアラビア語圏の女性作家の作品が日本で邦訳される機会は少なく、本作の刊行は貴重な機会となっています。
『とるに足りない細部』の概要
項目 | 詳細 |
---|---|
著者 | アダニーヤ・シブリー |
原題 | Minor Detail |
発売日 | 2024年8月26日 |
価格 | 2,200円(税込) |
出版社 | 河出書房新社 |
翻訳者 | 山本薫 |
受賞歴 | 独リベラトゥール賞(2023年)、全米図書賞翻訳部門最終候補(2020年)、国際ブッカー賞候補(2021年) |
ニュースを読んでみた所感
アダニーヤ・シブリーの『とるに足りない細部』の日本語版発売は、日本の読者にとって重要な機会となると感じました。本作は歴史的事実に基づいた物語を通じて、パレスチナ/イスラエル問題の複雑さと人間性の深淵を探る試みとして評価できます。また、世界的に高い評価を受けている作品が日本語で読めるようになることは、文学の多様性を享受する上で非常に意義深いことだと思います。
今後は、このような国際的に注目される作品の翻訳がより迅速に行われることを期待しています。また、アラビア語圏の女性作家の作品が更に多く日本に紹介されることで、異なる文化や視点への理解が深まることを願っています。同時に、文学作品を通じて政治的・社会的な議論が活発になることも重要だと考えます。
本作の出版をめぐる国際的な騒動は、文学と政治の複雑な関係性を浮き彫りにしました。今後は、こうした議論を建設的に行い、多様な声を尊重しながら文学の自由を守ることが重要になってくるでしょう。また、日本の読者がこの作品を通じて、遠く離れた地域の問題に思いを馳せ、グローバルな視点を養うきっかけになることを期待しています。
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